2012/12/29

normalisation

たしかに、滞在許可証の取得は数あるフレンチ・アドミニストレーションの関門のなかでも
難関のひとつである。

しかし、今回これだけ私が忠誠心テストを課せられているのは、
私が執拗に「通常」の権利を主張し、異質であるはずの私のノーマライゼーションを要求しているから。

許可証の申請者の立場は低い。
しかもアドミニの理由なきいじめにあったりすると、無力に、
「許可証ちょうだい。いい子にして、言うこと聞くから。」と白旗をあげたくもなる。
そして、それが許可証取得の近道かもしれない。

でも申請者にも、サン・パピエ(不法滞在者)にも、権利というものはある。

だから、たとえば

外国で行われるフォーラムに招待されたので行きたいと思ったとき、
お金を借りずに自力で生活財源を証明したいと思ったとき、

こういうのは波風を立てない申請方法では避けられる手間なわけだけど、
今回、私はフランス式に等身大の存在を主張してみることにしたのだ。

ちなみに波風を立てないとか、凹凸のない、滑らかな状態を表わすlisseという形容詞は
フランスにおける日本社会のイメージに対応する言葉らしい。
滞在許可証の申請に来ている日本人学生の横には、「仲介業者」のひとが付き添っていた。
とても日本人受けしそうな業務である、と思うと同時に、
きっと私の「わがまま」はこういう業者には「前例がありませんね」と嫌がられるのだろうと思った。

でも、これは私の意地である。
私にとって、フランスの滞在を求めるということは、
「正常者」と同等に共存するということにほかならない。

それでも「正常者」になるわけではないから、当然、さまざまな仕方で権利は制限されるだろうし、肩身のせまい思いもするだろう。
でも、自分から凹凸を減らして、平穏を装ってあげなくてもいいのではないか。
権利は主張し、正当であれば認められる、べきなのではないか。

もちろん自分の権利なんて誰も説明してくれないから、
それを主張できるだけしっかり把握するのはけっこう大変である。
でも、自分の権利を知っておくなんてこと、本当は当然のことだ。
それが徹底されにくい体制も徹底されないメンタリティもどちらも問題だとは思うけど...。

そんなわけで、今回私が挑んだ+αのひとつが「労働許可証」の添付。

厚生・労働・雇用省と経済・産業・財務省の共同の管轄下にDireccte(Direction régionale des entreprises, de la concurrence, de la consommation, du travail et de l'emploi:企業、競争、消費、労働、雇用担当地方局)という地方組織があって、外国人学生の労働許可証というのもここが発行している。それ以上詳しいことはわかりましぇん・・・

で、パリのあるイル・ド・フランス県のDireccteはAubervilliersという郊外我が校の将来の移転先)にあるのだけど、行き方を調べたらなんと、 
メトロの駅から連絡船が運航していますと書いてある。

というわけで、乗ってみました。

この連絡船というのがちょっと面白くて、サン・ドニ運河を渡るだけなのだけど、渡った先にある巨大ショッピングセンターを経営するICADEという不動産会社(でも預金供託金庫の系列なので、半官半民らしい)が、社員の足にと、SODETRELというこれまた半官半民のフランス電力系列の電気運輸開発機関と共同で開発した100%電気で動くフェリーなのだ。
電気だからとても静か。快適。しかも無料。 

申請、受領、更新とやはり何度も通わなくてはならなかったDireccteでしたが、ちょっと楽しい遠出だったのでした。
まあこうやって、フランスの知らない部分に触れたりもするというのは、不思議な縁だけど、
こういう経験を通して、この土地に滞在し、生活するということを体感している気がする。

振り返ってみると2012年は350日くらいをフランスで過ごしたことになる。
それは異邦人としてかもしれない。
それでも居場所をここに拓く必要があったのだ。

2012/12/03

administrations

日本大使館から電話がかかってきた。
2ヶ月前に申請した在外投票のための選挙人登録が完了したという知らせだった。

「通常ですと、こちらの負担で、書留で選挙人証をお送りすることができるのですが、
今回は、数日後に衆議院選挙が公示となりまして、翌日から在外投票がはじまります。
もし大使館にお越しいただいて投票なさるということでしたら、こちらで選挙人証をお預かりしまして、
お越しいただいた際にお受け渡しと、その後の投票の手続きをそのまま続けて行うことも可能ですが、いかがいたしましょうか。」

その丁寧さと、行き届いた配慮に感心してしまった(笑)

フランスにあっても日本大使館は間違いなく日本である。

フランスだったらたぶん機械的に郵送にまわされ、郵送に時間がかかり、届いたころには在外投票は締め切られていて、もっと早く申請しないあなたがわるい、ということになるだろう。
あるいは届かないから連絡したら、できてたのに、取りに来ないあなたがわるい、というところだろうか・・・

顧客=私のタイミングに合わせようという発想。
二度手間をさせないという配慮。

行くたびに新しい要求を持ち出して、
前の担当者には要求されなかったというと、前の担当者は私ではないといい、
電話で確認しようとすると、窓口の担当者がなんて言うかは知らないけどね、といい、
おかげでかれこれ5回も滞在許可証の更新手続きのために通っているフランス警察庁にはどちらも完全に欠如しています。

ビザ発行条件のひとつに違いないこの忠誠心審査 クリアまであと1回くらいかな、というところで、「次回は○○と××と証明写真を3枚持ってきなさい。」と言われた。

更新手続きに必要な書類のリストのなかには、証明写真3枚とある。

しかし、すでに3枚提出したうちの1枚は受取証という滞在許可証発行までの間の仮証明のような書類に貼って、残りの2枚を返却されたばかりだった。

そうか、もう1枚用意しなきゃいけないのか。

幸いもう1枚証明写真が手元に残っていたので、あわせて3枚にして、他の書類と共に次の回に持っていったら、案の定、というべきか、その1枚は返却された

つまり2枚しかいらなかったので、もう1枚追加する必要などなかったのだ。
前回受取証に使用した1枚とあわせて合計3枚。必要書類リストの通りである。

さて、このブログの読者なら、ここまで読んで、フランス生活あるあるだなと思ったに違いない。
ええ、私もそう思いました。

必要書類リストには証明写真3枚。
受取証を発行した人には残り2枚。

こんなことマニュアル化してしまえば済む話じゃん。

そこで私はふと気づいたのです。マニュアル化、しないのがフランスなのもしれない、と

前の担当者は私じゃない(から知らない、責任とらない、私は悪くない・・・)というくらいだから
文字通り人によって対応はさまざま。

でもたしかに対応しているのは人なのだ。
顧客を前に、対応者が制度の背後に存在を消すということはフランスではまずありえない。
だからこそ、これでもかというくらいに、等身大の個人が存在している。

それは暑苦しく、労力のいる社会である。
そりゃそうだ、制度というのは、未知なものを既知化していくためのルールなのだから、
未知の世界は刺激が多く、消耗するものである。

でも制度化が過度に進行すると、それは息苦しい。
行き場がないから、結局存在を消すことになる。
制度化が進行すると自律的行動能力が低下するというのはそういうことだ。

しかもたとえば日本の場合、制度化のために仕事量が増えてる。
サービスのクオリティは圧倒的に高が、犠牲も少なくない。

この、自分を犠牲にする、姿を消す、という発想はフランス社会には乏しい。

サービスのクオリティは低くても、仕事量を抑える。
そして何よりも自由を謳歌するのだ
    
フランスが誇りに誇っている人権宣言のうち、唯一辛うじて達成されたと思われるのが
この自由かもしれない。

この国に生活するひとたちが幸福であるかどうか、は別として、
この国のひとは自分の幸福を追求する自由を固持している。

等身大の個人、というのがミソで、
これは前にも触れた「ありのままの自分を受け容れる」ことに価値を見出す生き方にも通ずるものがある。 それぞれが勝手に社会に自分の場所を確保していっている、と書いたけど、
つまりそれは、勝手に自分の幸福を追求している、ということでもあるのだ。

その勝手さには、まあ呆れる。
でもこの国にいると、一生懸命幸せになろう、という気にもなる。

そして願わくば、私の投じた一票が、幸せを追求する自由を奪おうとする暴力に少しでも歯止めをかけるものとなってほしいもの・・・